パート・オブ・フォーチュンの位置がソフトによって違うのはなぜ?——2000年続く『昼と夜の計算式』論争
2026年10月16日

「スタナビで見たパート・オブ・フォーチュンと、ほかのソフトで見た位置が、まるで違う」——こんな声をいただくことがあります。サインどころか、ハウスまで変わってしまうこともあります。
どちらかのソフトが間違えているのでしょうか? 実はそうではありません。パート・オブ・フォーチュンには計算式が2種類あり、ソフトによって採用している式が違うのです(スタナビでは両方式に対応しており、設定で切り替えることができます)。
しかもこの「どちらの式が正しいか」という論争は、およそ2000年前から続いています。
この記事では、パート・オブ・フォーチュンの基本的な意味と、2つの計算式、そして占星術の歴史における論争のお話をご紹介します。
目次
- パート・オブ・フォーチュンとは?——「月にとってのアセンダント」
- 2つの計算式——違いは「夜生まれ」のときだけ
- 2000年続く「入れ替える派」と「入れ替えない派」
- どちらが正しいの?
- スタナビでは両方の式を切り替えられます
- まとめ
パート・オブ・フォーチュンとは?——「月にとってのアセンダント」
パート・オブ・フォーチュン(Part of Fortune)は、天体ではなく、太陽・月・アセンダント(ASC)の3つの位置から計算で求める感受点です。ラテン語では「パルス・フォルトゥナエ(Pars Fortunae)」、古代ギリシャでは「幸運のくじ(ロット)」と呼ばれていました。日本語では「幸運のパート」と訳されることもあります。
考え方はとてもシンプルです。
太陽とアセンダントの関係を、そのまま月に移したところ
太陽から見てアセンダントがどこにあるか、と同じだけ、月から離れた場所にパート・オブ・フォーチュンを置く——という作り方です。2世紀の天文学者・占星術師プトレマイオスは、これを「月にとってのアセンダント」と表現しました。アセンダントが太陽の側から見た「その人の入口」なら、パート・オブ・フォーチュンは月の側から見た入口、というわけです。
古典の占星術では、身体や健康、財産、めぐり合わせ(運)など、「その人に与えられたもの」を見る点として扱われてきました。名前のとおり、幸運や豊かさがどの分野に現れやすいかを見るポイントとして紹介されることが多い感受点です。
月の満ち欠けとも結びついている
計算の仕組みから、面白い性質があります。
- 新月の頃に生まれた人(太陽と月が近い)→ パート・オブ・フォーチュンはアセンダントのすぐ近く
- 満月の頃に生まれた人(太陽と月が向かい合う)→ パート・オブ・フォーチュンはディセンダントの近く
つまりパート・オブ・フォーチュンは、生まれたときの月相を、ホロスコープの上に描き直したものとも言えます。この性質は、次に紹介する2つの式のどちらでも変わりません。
2つの計算式——違いは「夜生まれ」のときだけ
パート・オブ・フォーチュンの計算式には、次の2つがあります。
| 昼生まれ | 夜生まれ |
|---|---|---|
モダン式(昼夜同じ) | ASC+月−太陽 | ASC+月−太陽 |
古典式(昼夜で反転) | ASC+月−太陽 | ASC+太陽−月 |
ここでいう「昼生まれ」「夜生まれ」は時計の時刻ではなく、生まれたときに太陽が地平線より上にあったか(ホロスコープの7〜12ハウス側)、下にあったか(1〜6ハウス側)で決まります。
ポイントは2つです。
- 昼生まれの人は、どちらの式でも同じ位置になります。 「ソフトによって違う」と感じるのは、夜生まれの人だけです。
- 夜生まれの人の2つの位置は、アセンダントをはさんで鏡写しになります。 モダン式ではアセンダントから時計と反対回りに60°の位置、古典式では時計回りに60°の位置に出る、という関係です。サインやハウスが大きく変わるのはこのためです。
古典式が夜に式を入れ替えるのは、古典の占星術に「セクト(昼夜)」という考え方があるからです。昼のチャートでは太陽が主役、夜のチャートでは月が主役——だから夜は太陽と月の役割を入れ替えて計算する、という考え方です。
2000年続く「入れ替える派」と「入れ替えない派」
ここからは占星術の歴史のお話です。
1世紀には、もう論争があった
西暦81年に作られたあるホロスコープ(パピルスに書かれて現存しているもの)の作者は、夜に式を入れ替える占星術師たちを「無知な者」と呼んでからかっています。裏を返せば、この時代すでに「入れ替える派」がいて、意見が分かれていたということです。
入れ替える派——ドロセウス、ヴァレンス
1〜2世紀のヘレニズム期の占星術師、シドンのドロセウスやヴェッティウス・ヴァレンスは、夜には式を入れ替える方法を書き残しています。当時はこちらが多数派だったと考えられています。ヴァレンスは、パート・オブ・フォーチュンと対になる「パートオブスピリット」も重視しました。
入れ替えない派——プトレマイオス、そしてリリー
一方、2世紀のプトレマイオスは、主著『テトラビブロス』の中で「昼も夜も同じ式で求める」と明言しています。「月にとってのアセンダント」という定義に忠実なら、入れ替える必要はない、という立場です。
時代は下って17世紀イギリスの名占星術師ウィリアム・リリーも、このプトレマイオスの式を採用しました。
つまり、いま「モダン式」と呼ばれている昼夜同じ式は、実はプトレマイオスの時代からある古い式なのです。そして「古典式」も、古典の中で一枚岩だったわけではありません。名前の新旧と、式の古さは一致しないのです。
中世アラビア——パートが55個に
パート(ロット)の考え方は、8〜10世紀のアラビア世界の占星術で大きく発展しました。9世紀の占星術師アブー・マアシャルは、なんと55個ものパートを紹介しています。11世紀の学者ビールーニーは、「プトレマイオスは幸運のパートひとつしか認めていないのに、後の人々はやたらと増やしすぎだ」とこぼしています。
「アラビック・パーツ」は勘違いから生まれた名前
パートが「アラビック・パーツ(アラビアのパート)」とも呼ばれるのは、中世ヨーロッパの占星術師たちがアラビア語の文献から占星術を学び直したためです。彼らはパートをアラブ人の発明だと思い込み、この呼び名が定着しました。ところが起源をさかのぼると、ここまで見てきたとおり古代ギリシャ・ローマ時代にたどり着きます。
近代は「入れ替えない」、1990年代から「入れ替える」が復活
19〜20世紀に近代占星術を広めたアラン・レオは、昼夜同じ式を使ったとされます。こうして20世紀の占星術では昼夜同じ式が一般的になり、「モダン式」と呼ばれるようになりました。
ところが1990年代、アメリカで古代ギリシャ語・ラテン語の占星術文献を翻訳するプロジェクトが進むと、古典の「セクト(昼夜)」の考え方が見直されます。それにともなって、夜に式を入れ替える古典式も、再び使われるようになりました。
ソフトによって位置が違うのは、この2000年の論争がそのまま現代に持ち越されているから、というわけです。
どちらが正しいの?
結論から言うと、どちらかが間違いというものではありません。それぞれに長い歴史と考え方があり、占星家によって使う式が違います。大切なのは、
- 自分が見ているパート・オブ・フォーチュンがどちらの式で計算されたものかを知っておくこと
- 本やセミナー、先生の解説を参考にするときは、その人がどちらの式を使っているかに合わせること
です。昼生まれの方は、どちらでも同じ位置なので気にしなくて大丈夫です。
スタナビでは両方の式を切り替えられます
スタナビでは、パート・オブ・フォーチュンの計算式を表示設定で「モダン式」と「古典式」から選べます。
- モダン式:常に ASC+月−太陽
- 古典式:夜のチャートでは ASC+太陽−月
なお、旧スタナビは古典式でした。旧スタナビと同じ位置で見たい方、古典の占星術を学んでいる方は「古典式」を、20世紀以降の占星術の本と合わせたい方は「モダン式」を選んでください。夜生まれの方は、両方を切り替えて見比べてみるのもおすすめです。アセンダントをはさんで鏡写しに動く様子が確かめられます。
さらにスタナビには、パート・オブ・フォーチュン以外の伝統的なロット(パート)を表示する機能や、計算式を自分で定義できる「カスタムロット」もあります。カスタムロットでは「夜のチャートで式を入れ替える」かどうかも選べるので、古典の文献に出てくるロットを自分で再現することもできます。
まとめ
- パート・オブ・フォーチュンは、太陽とアセンダントの関係を月に移した感受点。プトレマイオスは「月にとってのアセンダント」と呼んだ
- 計算式は2つ。違いが出るのは夜生まれの人だけで、2つの位置はアセンダントをはさんで鏡写しになる
- 「夜に入れ替えるか」の論争は1世紀から続いている。「モダン式」はプトレマイオス以来の古い式、「古典式」は古代の多数派で1990年代に復活した式
- どちらが正しいではなく、どちらの式で見ているかを知っておくことが大切。スタナビでは表示設定で切り替えられる



